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日記と雑文を掲載しています。実在していた人物について創作していることもございますのでご注意ください。

タイトル未定①

 

早足で往く父の背を追いかける。高校生にもなってお父さんとお祭りなんて。そうぼやいてみせれば、振り返った父は眉一つ動かさず、「仕方ないだろう、お前は市長の娘なんだから。」とお決まりの台詞。イケメン敏腕市長、なんて呼ばれて人気こそあるようだが、この狭い田舎のコミュニティでは、それがかえって私の閉塞を助長させる。今だってそうだ、父の「仕事としての参拝」に追従しなければならないなんて。街の多くの人と同様私も土地神様を信仰してはいるが、故にこそ仕事の付き添いとしてでなく参拝したかったのに。
爪先が一段高い石段を蹴る。本殿に到着したようだ。向かって右に迫り出すようにしつらえられた舞台へ、案内されるがままに歩み入る。公務の一環とやらで、祭の舞を真近で見ることが出来るのだ。こればっかりは役得よね、なんてさっきまでの嫌な気持ちを若者らしい速度で裏切りながら、私は特等席についた。
幾分かの準備時間ののち、土地神様に捧げる独特の旋律が響いてくる。舞台下の人々の期待の高まりを肌で感じていると、ほどなくして舞人と思われる女性が舞台へと光臨してきた。彼女は細い指で笛をとり、僅かに旋律を産む———「毎年のこと」と無意識下に存在していたあなどりを柔くほぐすかのような、清らかな、清らかなあまりに透明な音色であった。やがてそっと笛を置いた彼女のぬばたまの髪が、回転の拍子に目前まで届いて、清澄な空気を運んでくる。光源を探るように目をこらせば、同年代と思われる少女の、果たして女神のごとき微笑があった。嗚呼、酸素が足りない———。溺れるような心地で、私はただただ彼女にとらわれていた。

 

(680字)